映画紹介

[柴井堰とは]

川から田へ水を引くための取水方法のひとつに「柴井堰」というものがある。「柴井堰」は、雑木の枝葉を束ねたものを川幅いっぱいに敷き並べ、水を堰上げる。その原初的な堰上げ方法の起源は、日本に稲作が伝播した約2千数百年前にまで遡る。近世までは日本のどこにでもみられた柴井堰も、明治期以降、堰を維持する共同体の崩壊とともに近代堰に改築され、次第に姿を消していった。

鹿児島県鹿屋市串良町

[映画の舞台と背景]

場所は鹿児島県鹿屋市串良町。シラス台地の谷間に沿って、一級河川の串良川が流れる。高隈山地を源流とするその川は、台地の裾から湧き出る水を集め、しだいに川幅を広げながら串良町と東串良町との間を南流する。そんな串良川に沿って広がる県下有数の水田地帯がこの映画の舞台だ。水田の水は、串良川に掛けられた日本で唯一の芝井堰、川原園井堰から取水する。川原園井堰は、毎年春に農家の手によって掛け替えられる。近くの里山から切り出した柴を150束揃え、川幅いっぱいに隙間なく並べる。この「柴掛け」は、築造以来300年以上にわたり続けられてきた。川原園井堰から取水する水で米をつくる農家は実に1000世帯以上にのぼる。

2015年、串良の水田は長年の悲願であった圃場の大規模整備を完了させた。水田の集約化、用水路の地下パイプライン化、ポンプ場の整備などが行われた。個々の田んぼには蛇口が設置され、ひねればいつでも水が供給されるようになった。圃場整備により農家の負担は軽減され、共同作業に依存しない効率的な営業が実現された。しかし、その一方で、水の流れに対する意識は希薄化した。「この水はどこからきているのか」そのことに思いを至らせる機会も減った。灌漑設備がどれだけ高度に近代化されようとも、川から水を引き、その恩恵にあずかりながら米をつくっているという事実は何も変わらない。

一年に一度、皆で堰を再生し、水に感謝し、豊作を祈るーー。

​この柴掛けの「場」は、これまで以上にかけがえのないものとなっている。

物語

「こんなもんは、原始人のやることだ」

そう繰り返すのは柴掛けの親方を40年以上にわたり担ってきた出水園利明さん。串良を代表する稲作農家であり、灌漑施設を維持管理する串良町土地改良区の理事長も務める。御年77歳、体力の衰えを感じはじめた親方は、川原園井堰の将来を思う。1000世帯以上の農家の生命線である川原園井堰をいつまで守り続けられるだろうかーー。

「私ができなくなったらもうおしまいだよ」そこには親方としての自負と責任感が見え隠れする。自然の材料と、親方の職人的感覚に支えられた柴井堰を継承することは決して容易なことではない。担い手の高齢化、里山の荒廃と材料不足、農政の転換…。容赦なく押し寄せる時代の波が、堰の維持・継承を阻む。近代堰への改築か、それとも継承か。葛藤のはざまに揺れる川原園井堰。

一見、時代の流れから取り残されたかのような原始の技術。

そこには数百年の年月の中で醸成された”自然とともに生きていく”ための思想があった。

スタッフ

監督 西村祐人

撮影 小原信之

編集 大津仁良

構成原案 荻原知子

制作統括 安藤達也

制作協力 佐多祐一・山田裕貴・木本泰二郎

監修 中井祐

特別協力 大熊孝

編集協力 Kプロビジョン

製作 川原園井堰映像記録製作委員会

協力 串良町土地改良区、東串良町林田土地改良区

   鹿児島県鹿屋市・東串良町のみなさま

   GSデザイン会議

助成 公益財団法人河川財団河川基金

   公益信託大成建設自然・歴史環境基金

​2018 / 100分 / 16:9 / カラー / ドキュメンタリー

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